函館五稜郭病院

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心臓リハビリテーション

心臓リハビリテーションとは

 日本心臓リハビリテーション学会によると「心臓病を持つ方の体力や不安・抑うつを改善し、社会復帰を実現し病気の進行を防ぎ,再発・再入院を減らすことをめざして、運動療法・生活指導・カウンセリングなどを行なうプログラム」と定義されています。

 医師,理学療法士、看護師、薬剤師など多くの専門医療職がかかわって、患者さん一人ひとりの状態に応じたリハビリプログラムを提案、実施します。

心臓リハビリテーションの効果
  • 1.運動することによって、酸素の取り込みが良くなる
  • 2.運動能力が増加することによって、楽に動けるようになる
  • 3.気持ち良い汗をかくことによって、不安やうつから解放される
  • 4.狭心症や心不全の症状が軽くなる
  • 5.生活習慣病の危険因子(血圧、血糖値など)がよくなる
  • 6.血管内皮機能(血管が自分で広がる能力)がよくなり血液の循環がよくなる
  • 7.自律神経のバランスや働きが良くなることによって、血圧や脈拍が安定し不整脈が起きにくくなる
  • 8.血液凝固因子が安定し、血栓ができにくくなる
  • 9.心筋梗塞の再発や突然死が減り、死亡率が減少する(3年間で約25%低下)
  • 10.心不全の死亡率や再入院率が減少する
    心臓リハビリテーションは死亡率を56%減少させ、再発を28%減らすとされています

日本心臓リハビリテーション学会HPより

運動療法
 活発な身体活動は虚血性心臓病の発生または死亡を減らすということが多くの研究で報告されています。ウォーキング,自転車漕ぎ(エアロバイク),エアロビクス,筋トレ,卓球の緩やかなラリーなど心臓に負担がかかり過ぎないような運動療法を実施します。
食事療法
 脂質異常症糖尿病、高血圧、肥満などは虚血性心臓病の危険因子とされており、これらは日常の食生活に影響を受けています。日常の食生活を見直すきっかけとするために、栄養士と協力して塩分や脂質、糖質などを過剰に摂り過ぎず、バランスよく栄養が摂取できるようなアドバイスをします。
禁煙指導
 タバコに含まれるニコチンは、血管を収縮させて血圧を上げたり、血液の流れを悪くして血管を詰まりやすくします。禁煙することにより虚血性心臓病が再発するリスクが低下することがわかっています。低タール・低ニコチンのタバコが虚血性心臓病のリスクを低下させることはありません。
禁煙を成功させるには
  • 1.禁煙宣言をする
  • 2.吸いたくなったときに体を動かす・水を飲む
  • 3.失敗しても自分を責めない
  • 4.禁煙外来を受診する
  • 5.喫煙グッズを捨てる
  • 6.毎月のタバコ代をジムなどの代金に充てる

などの方法があります。

カウンセリング
 精神的ストレスが重なったり身体的ストレス(過労)が生じると、身体の防御反応として血管が収縮して血圧が上がり、脈が早くなります。また、血液がドロドロになり血管が詰まりやすくなって狭心症発作や心筋梗塞の引き金になります。さらに心筋梗塞後はうつ状態を訴える人が多く、死亡率を高めるといわれていますが、運動療法やカウンセリングを含めた心臓リハビリテーションには、うつ状態を改善する効果があります。

代表的な心臓の病気

虚血性心臓病

 心臓の周りには心筋に血液と栄養を運ぶ冠動脈(心臓の血管)と呼ばれる血管が存在します。
 この血管の内側にコレステロールなどの物質がたまり、冠動脈が狭くなることを動脈硬化といいます。
 動脈硬化が進み、心筋(心臓の筋肉)へ血液が十分に供給されなくなると、心筋が酸素不足(虚血)の状態になります。これを虚血性心臓病あるいは冠動脈疾患と呼びます。

心臓
動脈硬化

狭心症

 動脈硬化や血栓などで血管が狭くなったり、血管のけいれん(血管攣(れん)縮(しゅく))などにより、冠動脈を流れる血液量が極端に減ってしまうと、心筋は一時的に血液(酸素・栄養)不足となります。これを心筋虚血といい、主に前胸部、ときには左腕背中上腹部にも痛みや圧迫感を感じます。

狭心症の際に痛みや圧迫感の感じる部位

心筋梗塞

 血栓などにより冠動脈が完全に詰まると、心筋に酸素と栄養が行き渡らず高度な虚血を引き起こし、時間の経過とともにその先の心筋が完全に壊死(組織が死ぬこと)に陥ります。急性心筋梗塞に陥ると多くの場合、胸痛(心臓を握りつぶされるような激しい痛み)圧迫感が安静にしていても20分以上持続します。

狭心症と心筋梗塞

心不全

 心臓は血管を通して全身に栄養と酸素をのせた血液を送り込むポンプの働きをしています。心臓のポンプ機能が弱くなって血液を十分に送り出せず、さまざまな症状が起こる病気を心不全といいます。心不全になると動悸、息切れ・呼吸困難、易疲労感(疲れ易い)、膝から下のむくみ、時には食欲不振やお腹がはる感じなどの消化器症状が現れることもあります。

心不全

大動脈解離

 心臓から押し出された血液を運ぶ動脈の中で最も太い大動脈の壁は、内膜、中膜、外膜の3層構造になっています。この大動脈の壁が中膜の層で大動脈の走る方向に沿って2層に剥がれた状態大動脈解離といいます。大動脈解離になると多くの場合、胸や背中が引き裂かれるように走る突発的な激しい痛みが生じます。痛む箇所は、前胸部から肩、背部、腹部、腰部と異なります。しかし、まれに痛みがほとんどなく、無症状のこともあります。

正常大動脈と大動脈解離

治療

1.虚血性心疾患

薬物療法

 発作を止めるまたは予防する・血管が詰まるのを防ぐ・血圧を下げることを目的にお薬での治療がされます。

経皮的冠動脈インターベンション

 足の付根や腕の血管から細い管(カテーテル)を通し、狭くなったり詰まっている冠動脈へ到達させて、先端についた風船(バルーン)で血管を広げます。また、再び血管が狭くなるのを防ぐため、風船で血管を広げた部分にステントと呼ばれる網目状の金属を留置し、血管の拡張を維持する方法が主流になってきました。

冠動脈バイパス術

 血管の狭くなった部位や詰まっている箇所に、自身の血管を繋いで迂回路(バイパス)を作り、大動脈から直接血液を送ることができるようにします。

2.心不全

 心不全になってしまった原因によって、薬物療法、手術やカテーテルによる治療、ペースメーカ療法など様々な治療が行われます。

3.大動脈解離

解離が起きた場所によって、手術的治療と内科的治療に分けられます。

手術的治療

 人工血管置換術と呼ばれる必要な範囲を人工血管に置き換える方法が行われます。置き換える場所によって、上行置換術・弓部全置換術・下行置換術と呼び名が変わります。

内科的治療

 手術を必要としない場合は、安静と薬による血圧管理が治療の中心となります。薬により血圧が安定した後も医師の指導のもとでリハビリをしながら徐々に身体を動かしていくことが大事です。また、状態が安定して退院した後も、血圧をしっかりと管理しなければ解離の再発が起こる場合があります。

心臓リハビリテーションの実際

 心臓リハビリテーションの基本は運動療法です。しかし、心臓病の患者さんにとって過度の運動は危険です。適切な運動の種類や強さ、頻度などを知るために心肺運動負荷試験を行います。

心肺運動負荷試験

 心拍や血圧、心電図、呼吸している空気の分析を行いながら、トレッドミル(ベルトコンベアの上を歩く)や自転車エルゴメーター(自転車を漕ぐ)を使って徐々に負荷を上げていくことでどのくらい運動ができるかという能力を調べます。

入院中のリハビリテーション

心臓手術後のリハビリテーション

適応
  • 1.発熱がなく炎症反応が改善傾向を示している
  • 2.心臓や肺に水がひどく溜まっていない
  • 3.新たな不整脈がない
  • 4.貧血があったとしても改善傾向にある
内容

 有酸素運動筋力トレーニングを併用します。
有酸素運動は「楽に会話ができる」程度で行うのが最も効率的です。重症の場合には、それよりも低いレベルから始め、間隔を空けて運動を行います。

筋力トレーニングは「少しつらい」というレベルで行います。

呼吸の運動

 開胸手術となる場合、手術で胸骨(胸の間にある骨)を切ると、息を吸ったときに傷が痛んだり、傷が開くのではないかという不安感で、自然と浅い呼吸になってしまいます。すると、肺に痰がつまり肺炎になってしまったり、息切れ感が現れます。術後の早い時期からゆっくりと深く呼吸をする練習を行うことでこれらの合併症を予防することが出来ます。

周術期階段パス

 術後早期から運動療法を開始すると、ほとんどの人は約2週間で運動能力が回復します。合併症のない方はできるだけ早い時期から運動療法を開始しましょう。当院では、心臓外科手術後、下図の階段パスを用いて術後リハビリテーションを進めています。

心臓外科手術後のリハビリテーション

心不全のリハビリテーション

適応

 寝ていても息苦しい症状がとれて、点滴しなくても済むようになれば、ほとんどすべての人が運動療法の対象となります。ただし、心臓病の種類によって行わないほうが良いとされるものもあるため、運動療法を行う場合には、医師の診断が必要になります。

内容

 心臓手術後のリハビリテーションと同様、有酸素運動筋力トレーニングが中心となります。

運動療法を安全に行うために

 運動中の心拍数や血圧、心電図を計りながら行うことで、身体に異常な変化が起きていないか確認します。また、比較的長期にわたって体重や採血データ、胸部レントゲンなどの検査も行いながら運動療法を継続します。

リハビリテーションを中止する基準

 自覚症状の悪化、体重の著明な増加、心臓の拡大、採血データの悪化などが認められた場合は運動療法を中止します。

大動脈解離のリハビリテーション

適応

 全身状態が安定していて、敗血症などの重篤な合併症がなく、血圧が収縮期血圧(最高血圧)で120~130mmHg未満にコントロールされていれば、下表のプログラムに沿ってリハビリが進められます。

大動脈解離入院リハビリテーションプログラム
日にち ステージ コース 病日 安静度 活動・排泄 清潔
/ – / 1 標準・短期 発症~2日 他動30度 ベッド上 部分清拭(介助)
/ – / 2 標準・短期 3~4日 他動90度 同上 全身清拭(介助)
/ – / 3 標準・短期 5~6日 自力座位 同上 歯磨き、洗面、髭剃り
/ – / 4 標準・短期 7~8日 ベッドサイド足踏み ベッドサイド便器 同上
/ – / 5 標準 9~14日 50m歩行 病棟トイレ 洗髪(介助)
/ – / 短期 9~10日
/ – / 6 標準 15~16日 100m歩行 病棟歩行 下半身シャワー
/ – / 短期 11~12日
/ – / 7 標準 17~18日 300m歩行 病院内歩行 全身シャワー
/ – / 短期 13~14日
/ – / 8 標準 19~22日 500m歩行 外出・外泊 入浴
/ – / 短期 15~16日
退院
内容

 その時期の安静度に合わせて、基本動作練習や歩行練習などの有酸素運動が行われます。筋力トレーニングは血圧の上昇を招く原因となる可能性が高いため、負荷なし~ごく低負荷の運動のみ実施します。

家庭での運動療法

 心臓リハビリテーションは、入院中のみならず生涯にわたって必要なものなので、退院後の運動療法も重要です。自宅での運動療法も適切に行えば、病院での運動療法と同様の効果が得られます。

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