【医療コラム】腎臓病に対するリハビリテーションとは
腎臓病(慢性腎不全や透析を受けている方)を抱える方は、運動することでたんぱく尿が出やすくなるとされ、運動は推奨されてきませんでした。
しかし近年は、運動療法を推奨する方針に大きく変わっています。今回は理学療法士の観点から、腎臓病に対する運動療法などについて解説します。
腎臓病(慢性腎不全や透析を受けている方)を抱える方は、運動することでたんぱく尿が出やすくなるとされ、運動は推奨されてきませんでした。
しかし近年は、運動療法を推奨する方針に大きく変わっています。今回は理学療法士の観点から、腎臓病に対する運動療法などについて解説します。
腎臓(じんぞう)は、腰の辺りに2つあり、1つが握りこぶしくらいの小さな臓器です。
この小さな臓器の果たす役割は大きく、腎臓に毎日大量に流れてくる血液をきれいにして、余分な水分や老廃物を尿として排出したり、ホルモンを作ったり、血圧を調節したりしてくれます。
腎不全とは
腎臓のはたらきが低下し、体の中の老廃物や余分な水分を上手く排出できなくなる状態を腎不全(じんふぜん)といいます。
放置してしまうと体に深刻な影響を及ぼし、命にかかわる可能性があります。早期に治療すれば、進行を遅らせることや、状態を保つことができる場合が多いです。
主な原因は、糖尿病・高血圧・腎炎・薬の副作用などによります。
主な症状は、むくみや倦怠感(けんたいかん)、尿が出ない/出にくい、貧血などの症状が考えられます。
冒頭にも述べましたが、従来、保存期慢性腎臓病患者さんや透析患者さんは、運動することでたんぱく尿が出やすくなるとされ、運動は推奨されてきませんでした。※1
しかし近年は、運動でのたんぱく尿の増加は一時的にすぎず、適切な運動を行うと長期的には腎機能を悪化させず、むしろ腎臓の機能低下を抑えたり、心臓や血管の病気を予防したりする効果が大きいことがわかってきました。※2
腎臓リハビリテーションについては、慢性腎不全や透析患者さんがもっと いきいき生活できるように、長生きできるように、さまざまな手段を用いて実現するものです。※3
具体的には、運動療法、食事療法と水分管理、薬物療法、教育、精神・心理的サポートなどを行う長期にわたる包括的なプログラムで、❶腎臓病による体や精神に対する悪影響を減らす❷ 症状を軽くする、❸寿命を延ばす、❹社会生活や職業的状況を改善する、などを目的とした医療の1つです。※3・4・5
運動療法の効果
慢性腎臓病患者さんは筋力や持久力が低下しやすいことがわかっています。筋力や持久力 の低下は、感染症や心血管疾患、虚弱、抑うつなどを引き起こし、これらがさらなる筋力や持久力の低下を招く悪循環を形成します。
運動療法を中心とした腎臓リハビリテーションを行うことで、腎機能が改善したり、透析に移行するまでの期間が延長した、といった報告もあり、腎臓リハビリテーションの有用性が注目されています。※3・4・5
有酸素運動の場合、呼吸により大量の酸素を取り込みながら血液の循環を良くして、糖や脂肪を消費させる全身運 動です。ウォーキングを、1日1回30分、週に5日行うことを推奨されます。
レジスタンス運動(筋力をつける運動)の場合、同じ運動を続けて10~15回できる程度の強さを決めて、それを1セット10~15回、1日1~3 セット行います。筋肉は運動をすると一時的に機能が落ちますが、2~3日後には運動前より機能が改善します。
運動するときの注意点として睡眠不足・頭痛、だるさ、めまいなどの不調・むくみ・体重の増加・高血圧・高/低血糖などの症状がある場合は無理せず、休息をとりましょう。
コツコツと継続することが大切です。最初から頑張りすぎず、自分のペースに合わせて取り入れやすいものから初めてみましょう。気になる症状がある場合はすぐに医療機関を受診し相談しましょう。
1)日本腎臓学会編「CKD診療ガイド2009」,2009年 ,東京医学社
2)日本腎臓学会編「CKD診療ガイド2024」日腎会誌 2025;67(1):1-178, 2025年
3)一般社団法人 日本腎臓リハビリテーション学会 編「腎臓リハビリテーションガイドライン」,2018年 ,南江堂
4)一般社団法人 日本腎臓リハビリテーション学会ホームページ「保存期CKD患者に対する腎臓リハビリテーションの手引き」(https://jsrr.smoosy.atlas.jp/files/2231)2025年5月確認
5)特定非営利活動法人 ジャパンハートクラブ「慢性腎臓病患者さんのリハビリテーション~運動療法を中心に~」https://www.npo-jhc.org/,2025年5月確認
執筆者:函館五稜郭病院 理学療法士
掲載日:2025年5月30日