【医療コラム】心房細動の治療について①
~心臓は電気で動いている?~
私たちの心臓は1秒間に約1回の割合(60~80回/分)で収縮し、洞調律と呼ばれる規則正しいリズムを刻んでいます。心臓の洞結節と呼ばれる部位から微弱な電気信号が送られ、線維状の組織を通って、房室結節→ヒス束→右脚・左脚→プルキンエ線維と流れることで心臓が収縮します。
この心臓内に電気を伝える経路のことを刺激伝導系(図1)と呼び、この部位に異常が発生し、電気が規則的に伝わらなくなった状態を不整脈と呼びます。
~心臓(心房)の痙攣!!~
心臓上部の部屋である「心房」が痙攣した状態になる不整脈を心房細動と呼び、加齢とともに増加し70歳以上では約20人に1人がかかる病気と言われています。
この心房細動では脈拍の規則性が失われ、バラバラになることで動悸感や胸部の違和感・圧迫感といった症状が発生し、不整脈が長期間に及んでしまうと心不全の原因にもなります。
もっと大きな合併症として塞栓症があり、痙攣することによって心房内に血液の「よどみ」が発生し、血栓と呼ばれる血の塊ができやすい状態となり、脳梗塞の原因になります(図2)。
~心房細動の治療~
心房細動の治療には「薬物療法」と「非薬物療法」があり、それぞれの特徴ついて紹介します。
〇薬物療法
- ・抗凝固療法:抗凝固薬を内服することで、血液をサラサラにし、血栓ができにくくする治療です。
- ・リズムコントロール:抗不脈薬を内服し、心房細動そのものを起こさない、または起きてもすぐに洞調律に戻るようにする治療です。
- ・レートコントロール:心房細動自体は止められないものの、心拍数を適切な速さに調節する薬を内服する治療です。
- ・電気的除細動:電気ショックのことで、心臓の痙攣を停止させる方法だが、再発の可能性も多い治療です。
- ・メイズ手術:外科手術で心房細動を治療する方法で、他の心臓手術と同時に行います。
- ・アブレーション治療:カテーテル(3~4mm程の細い管)を足の付け根や首から心臓に挿入し、原因となる部位を高周波や冷凍凝固する治療で、不整脈に対する治療の中で身体への負担と再発する可能性が少ないと言われています。
〇非薬物療法
~心房細動のアブレーション治療~
本コラムではアブレーション治療について、より詳細に紹介したいと思います。
アブレーション治療は、カテーテルを足の付け根や首から心臓に挿入し、心臓の電気信号を記録しながら不整脈の検査をします。心房細動では原因となる肺静脈からの異常電気信号を50℃~60℃の熱で焼く、または-40℃~-50℃で冷却することによって不整脈を治療する「肺静脈隔離術」を実施します。当院では「熱での治療:高周波カテーテルアブレーション」と「冷却での治療:クライオアブレーション」を実施しています。それぞれの治療の特徴について紹介します。
〇高周波カテーテルアブレーション
心臓内の異常な電気信号を、高周波電流を使用して熱凝固させて電気信号を遮断する治療法です。CARTO3:カルト スリー(図3)と呼ばれる3Dマッピングシステムを使用しながらカテーテルで肺静脈周囲を数十回に分けて通電(図4)し、心房細動の根治(完全に治すこと)を目指します。
〇クライオアブレーション
3cm程の大きさのバルーンカテーテルを使用して、肺静脈4本を1本ずつ冷凍凝固させて電気信号を遮断する治療法です。
クライオアブレーション装置であるCryo Console:クライオコンソール(図5)を使用し、バルーンの中を亜酸化窒素ガスで充満させ、組織を-40~-50℃まで冷却(図6)することができます。
高周波アブレーションに比べて少ない冷却回数で治療できるため、短時間で治療を完遂できます。※図6のAblation Zoneが実際に冷凍凝固される部位
~おわりに~
臨床工学技士は上記の装置を医師の指示の下で操作して、患者さんに治療を提供しています。また、日々医療は進歩しており、それと同時に医療機器も進歩・複雑化しているため、様々な職種が専門性を発揮した「チーム医療」で安心・安全な治療の提供を目指しています。






