たばこの害
日本たばこ産業が実施している「全国たばこ喫煙者率調査」によると、2015年の全国の喫煙率は、19.9%、男性が31.0%、女性が9.6%となっています。右のグラフを見ても分かるとおり、ここ50年では、喫煙率はかなり低下してきてはいますが、とくに男性の喫煙率は諸外国と比較しても、いまだに高い状況にあると言われており、現在、国内に約1,500万人程度の喫煙者がいると推定されています。
今回の特集では、たばこにはどのような有害物質が含まれ、身体にどのような影響を与えるのか、また喫煙によってどのような病気が引き起こされるかについて解説します。
考えると恐ろしい煙の正体
たばこの煙には約4,000種類以上の化学物質が含まれており、そのうち約200種類以上が毒物、約60種類は発がん性物質です。中でも三大有害物質と言われるのが、ニコチン、タール、一酸化炭素で、これらの成分により、さまざまながんを発症するリスクが高まります。肺がんによる死亡の危険性はノンスモーカーの約4.5倍、咽頭がんは約32.5倍にも及ぶということが分かっています。
また、たばこの害はがんの発症だけでなく、心臓や血管系にも影響を及ぼします。具体的には、血管の収縮による血圧の上昇、血液の粘度の上昇、動脈硬化の進行、心臓への負担の増大などが挙げられます。こういった状況が長く続けば、やがては狭心症や心筋梗塞といった命に関わる病気につながったり、手足の血管がつまり、腐ってしまうなどといった危険性もあります。
たばこに含まれる有害物質
- タール
- ・多くの発がん物質を含む
- ニコチン
- ・麻薬を上回る強い依存性
・血管の収縮、血流の悪化 - 一酸化炭素
- ・全身の細胞を酸欠状態に
喫煙が引き起こす肺の病気
たばこは肺の細胞も破壊してしまいます。COPD(慢性閉塞性肺疾患)という病気は、別名「タバコ病」とも呼ばれ、原因のほとんどがたばこによるものと考えられています。従来、慢性気管支炎、肺気腫と呼ばれていた疾患です。この病気は、たばこの有害物質により、気道や肺胞に炎症が起こり、肺の働きが低下することで、正常な呼吸が困難になり、せき、たん、息切れなどの症状を発症します。「死よりも辛い」と言われるほど、進行すると大きな苦痛をともなう病気です。
右の写真は、喫煙する人としない人の肺を撮影したものです。左から喫煙しない人、1日10本を50年吸った人、1日60本を55年間吸い続けた人の肺です。喫煙者の肺は黒く染まり、深刻な影響がうかがえます。
受動喫煙の怖さ
たばこは吸っている本人だけではなく、煙にさらされる周囲の人たちにも害をもたらします。たばこから出てくる副流煙には、本人が吸いこむ主流煙の何倍もの有害物質が含まれています。右のグラフは、主流煙に含まれる有害物質の量を1とした場合、副流煙に含まれる量が何倍となるかを示したものです。ニコチンは2.8倍、タールは3.4倍、一酸化炭素は4.7倍、そして発がん物質として最も強力なものの一つであるニトロソアミンという物質は、なんと52倍も含まれています。
とくに、副流煙は妊婦さんや子供に対しての影響が大きく、妊婦さんの場合は、流産や早産、胎児の発育障害、子供の場合は、乳幼児突然死症候群や小児がん、喘息、気管支炎、中耳炎、発達障害、言語能力低下などといったさまざまな病気のリスクが高まるので注意が必要です。
吸った後も排出される有害物質
喫煙した後の数分間は、吐く息からたばこの成分が大量に排出され、その後も微量に排出され続けます。また、たばこの煙は壁や家具、髪の毛、持ち物にも付着します。その成分が手などに付着し、体内に入り込みます。これを三次受動喫煙(残留受動喫煙)と言います。三次受動喫煙では、ニコチンが大気中の亜硝酸と反応してできるニトロソアミンが増加し、健康被害もより大きいと言われています。
たばこは私たちに多大な害をもたらします。ご自身や大切なご家族を守るため、たばこのない生活・環境を目指していきましょう。
当院の禁煙外来については下記の呼吸器内科ページよりご覧いただけます。