函館五稜郭病院

函館五稜郭病院 > 整形外科「手の外科」診療内容の紹介

診療内容の紹介 整形外科 orthopedic surgery

整形外科

手の外科とは?

手の外科とは整形外科の中でもいわゆる肩から下の部分、肘、前腕、手関節、指などの上肢全体を専門的に治療する診療科目で、新鮮外傷と慢性疾患(スポーツ障害、関節リウマチ、神経疾患、関節疾患、腱鞘炎)、外傷後遺症を担当しています。  平成17年より年間約300例の「手の外科手術」を行っています。リハビリテーションは専任のハンドセラピスト(手の外科専門の作業療法士)が担当いたします。道南、函館地区の主な病院、診療所、整骨院とも協力して治療を行っております。肘、手の痛み、しびれ、機能障害、外傷(骨折、捻挫やその後遺症)でお悩みのかたはどうぞお気軽に相談にいらしてください。手の外科、上肢専門外来は金曜日ですが 月曜日、水曜日は手の外科、上肢の他一般外傷なども診察いたします。
函館五稜郭病院整形外科 手の外科、上肢担当 佐藤 攻

1.診療内容

外傷 : 橈骨遠位端骨折、舟状骨骨折、手指の骨折、肘関節の骨折、腱損傷、その他 外傷後遺症 : 橈骨遠位端骨折変形治癒、舟状骨偽関節、指切断後の変形、その他 変性疾患 : 腱鞘炎、手根管症候群、肘部管症候群、関節リウマチ、母指CM関節症、テニス肘、その他 スポーツ障害 : 野球肘、TFCC損傷、その他

2.外傷

①橈骨遠位端骨折

 橈骨遠位端骨折は最も多い外傷の一つです。転倒して手をついて受傷することが多く、高齢者を中心に路面の凍結する冬場に多く発生しています。症状は手関節周囲の腫れと痛み、変形です。骨折部がずれてない場合はそのままギプス固定で治療できます。しかし骨折部のずれが大きい、粉砕、骨粗鬆症がある場合は整復してもずれてしまう場合が多くみられます。このような場合ギプス固定を続けると変形したまま骨癒合してしまい、手関節痛、手の動きが制限されたりして機能障害が残存する可能性があります。五稜郭病院ではギプス固定に適さないかたは早期に手術治療を行い、早期社会復帰を目指しています。おもにプレートを使用しており術後ギプスは不要で食事、字を書く程度なら早期に可能となります。

橈骨遠位端骨折1 橈骨遠位端骨折2

日本手の外科学会 広報委員会作成パンフレットより

  • 橈骨遠位端骨折3 受傷後 骨折部が大きくずれている
  • 橈骨遠位端骨折4 手術後  プレート固定

②舟状骨骨折

舟状骨骨折はサッカー、野球などのスポーツ中に転倒して手をついて受傷することが多い骨折です。急性期の症状は手関節の腫れ、痛み(特に母指の付け根)です。骨癒合しにくい(骨がつきにくい)骨折なので、放置していると治らないことがほとんどです。治療せず慢性期になると痛みはある程度落ち着いてきますが、力を入れると痛い、背屈(腕立て伏せなど)できないなどの症状がいつまでも続くのが特徴です。 急性期の治療は骨折型や年齢によって異なります。ギプス固定で治療可能なタイプは小児例と骨折線が遠位(血流が良く骨癒合が期待できる)場合です。骨折線が中央、近位の場合はギプス固定が3ヶ月程度必要で、それでも骨癒合しない場合は手術が必要です。 手術はスクリュー固定を行っています。手術時間は約30分、創は1cm程度です。創部は専用の接着剤で固定するため抜糸などはありません。ギプス固定も必要ないため早期に日常生活に復帰が可能であり、成人の場合は手術治療をご希望されるかたが一般的です。慢性期の治療は外傷後遺症をご参照ください。

舟状骨骨折 舟状骨骨折 日本手の外科学会 広報委員会作成パンフレットより 舟状骨骨折

③手指の骨折

 突き指、転倒、バスケットボールや野球、サッカーなど日常の生活で発生します。骨折部位、骨折型、年齢など多くの要因で治療法が異なります。後遺症を残さないこと、早期に日常生活に復帰すること、なるべく簡単で負担のかからない治療法、具体的にはテーピングや装具(ハンドセラピストが手に合わせて作製)、手指を動かせるようなギプス固定、リハビリテーションを中心に行っています。しかしベストと思われる場合は手術治療を行っています。

手指の骨折

④肘関節の骨折

 転倒、転落、交通事故により発生します。成人の肘関節はギプス固定には適していない関節で、長期のギプス固定で関節が固まってしまう(関節拘縮)、骨折部がずれて変形、骨癒合しないで偽関節となり後遺症を残すことが多くなります。そのため肘関節の骨折に関しては手術治療が必要なことがほとんどです。手術は専用のワイヤー、スクリュー、プレートを組み合わせて行っており、手術後ギプス固定は不要で早期にハンドセラピストと関節の運動を開始します。

手指の骨折

3.外傷後の後遺症

①橈骨遠位端変形治癒

橈骨遠位端骨折をギプスで治療したが痛みがとれない、手がしびれる、手指の動きが悪いことがあります。原因はいくつかありますが代表的なのは変形治癒(ずれたまま骨がついてしまったこと)が挙げられます。骨の変形による手根管症候群(手のしびれ、痛み)、手指の拘縮(握れない)、手関節がうまく動かない、手を使うと痛いなどの症状があります。リハビリを行っても症状が改善しない場合は手術治療が必要です。変形癒合した骨折部を矯正、プレートで固定します。骨欠損が大きい場合は通常腰(腸骨)から骨移植を行うことが多いですが、五稜郭病院では人工骨を使用するため自分の骨を取る必要はありません。
  • 外傷後の後遺症 ■変形治癒 痛みしびれでほとんど手が使えない握ることが不可能
  • 外傷後の後遺症 ■矯正手術後 痛みしびれは消失、手指の動きも正常化

②舟状骨偽関節

舟状骨を骨折したまま放置したり、ギプス固定を行ったが骨癒合しなかったりすることがあります。症状は手関節痛、腫脹、可動域制限(手関節の動きが制限)です。長年放置すると軟骨が損傷して変形性手関節症に進行することがあります。治療は手術治療が基本となります。偽関節部の活きが悪い骨を切除して自分の新鮮な骨を移植してスクリュー固定を行う方法が標準的です。

舟状骨偽関節

③指尖部損傷後の指変形

指先を機械ではさんだ、刃物で切断された場合、五稜郭病院では可能であれば血管をつなぐ再接着術を行いますが高度な技術、設備を必要とするので一般的な病院では行っていないことがほとんどです。

指尖部損傷後の指変形 左図 環指切断 右図 再接着術後 2年
指尖部損傷後の指変形 左図 爪の変形 右図 足趾から部分移植、矯正手術後

4.変性疾患

①腱鞘炎

腱鞘炎とは腱を包んでいる腱鞘という、いわば腱のトンネルで腱とこすれ合う刺激を受けることで炎症が起きている状態です。症状は指を動かしたときの痛みや引っかかり感、特に朝のこわばり感です。 腱鞘炎は腱鞘のあるところならどこにでも起こる可能性がありますが、最も発症頻度の高いのが手指で、特に母指(親指)に最も多く発症します。そして母指の使い過ぎによる刺激のため腱鞘が肥厚、腱自体も腫れてきて一層刺激が強くなるといった悪循環が生じます 原因は函館では水産加工業などに従事する女性に多くみられる手をよく使う仕事の人、あるいは妊娠、産後や更年期の女性、関節リウマチなどでも起こります。 診断は指の動きや圧痛を調べますが、母指ごと手首を小指側に曲げると痛みは一層強くなるのが特徴です(フィンケルシュタインテスト)。腱鞘炎が疑われる場合は関節リウマチや手指の変形性関節症、細菌による感染症との鑑別がとても重要です。

腱鞘炎

日本手の外科学会 広報委員会作成パンフレットより

■トリアムシノロンは他のステロイドに比較して効き方の差は歴然

 治療は安静、炎症を抑える非ステロイド性消炎鎮痛薬を用いますが、進行例ではあまり効果がありません。そこで炎症が強い場合には腱鞘内に抗炎症作用のあるステロイド薬を微量注射します。ステロイドもいくつか種類がありますが、最近有効性が評価されているのがトリアムシノロンで他のステロイドに比較して効果の差は歴然としています。さらに以前のステロイドは有効な期間も短かったのですが、トリアムシノロンは3―12ヵ月に一度の治療で十分な場合がほとんどです。五稜郭病院では腱鞘炎の手術は以前に比べて激減しており年に数例程度です。むしろトリアムシノロンで効果が不十分な場合は手術した方が良いでしょう。手術は10分程度で終了します。入院は不要です。
腱鞘炎

日本手の外科学会 広報委員会作成パンフレットより

②手根管症候群

手根管症候群(しゅこんかんしょうこうぐん)は示指(人差し指)と中指を中心に、しびれと痛みが出ます。また環指(薬指)、母指(親指)に及ぶこともありますが、こうした症状は明け方に強く生じ、手を振ったり、あるいは指の運動をすると症状は楽になります。また進行すると、母指の付け根(母指球)の筋肉がやせてきて、ボタンをかける、縫い物などの細かい作業が困難となります。五稜郭病院の外来でもしびれと痛みの辛い症状を訴える患者さんは多くみられます。 手根管とは手関節の骨と靭帯に囲まれた管腔(トンネル)で、その中を屈筋腱と正中神経が通っています。この管腔の中で正中神経が圧迫され症状を引き起こします。女性に多く発症し手をよく使う重労働者や妊娠中、あるいは手の骨折の後や人工透析を受けている人にも起こることが知られており腱鞘炎を起こしやすい人に多いようです。 診断は神経圧迫部位の手首(手関節)をたたくとしびれや痛みが指先にひびくティネル徴候、それと手関節を掌屈することによりしびれが強くなるファーレンテストなどが行われますが、確定診断のためには神経伝導速度(神経を電気で刺激してから筋肉が反応するまでの時間)を検査します(3分程度で終わります)。 治療は局所の安静、飲み薬、ブロック、手術があります。手を酷使して発症するものが多く初期ではまず手作業、重労働を控えビタミン剤や消炎鎮痛剤を内服します。症状が強い場合ステロイド剤の手根管内注射などを行っていきますが、進行して症状が悪化する場合には手術が必要となります。
手根管症候群

日本手の外科学会 広報委員会作成パンフレットより

■手根管開放術は1-2センチほどの小さい創です

手術は神経を圧迫している靭帯を切開して神経の圧迫を取り除きます。切開する創は4-5センチ程度が通常ですが、五稜郭病院で実施している手根管開放術では1センチほどの小さい創です。この手術法のメリットは創自体の痛みが少なく早期に手を使えるようになることです。手術は局所麻酔で手術時間10分ほど、入院は不要です。五稜郭病院では重症例の紹介患者さんが多いため年間約60人にこの手術を行っています。 手根管症候群は診断がつかないことも多く、肩こり、上腕―前腕の痛み、しびれなどの症状で頸椎、肩関節疾患として治療されている場合もありますのでなかなか治らない症状があるようでしたらご相談ください。

③肘部管症候群

環指(薬指)、小指のしびれ、痛み、細かいものをつまみにくい、お箸が使いにくい、ボタンをかけにくいなどの症状が中心です。肘を屈曲していると手がしびれてくる、肘の内側がぶつかると手に電気が走った感じがするなどの症状がある場合もあります。症状が進行してくると指のまたの筋肉が痩せてきます。 肘の内側に、骨と靭帯(じんたい)で形成された肘部管というトンネルがあり、ここを尺骨神経が通ります。トンネル内で慢性的な圧迫や引き延ばしが加わると、容易に神経麻痺が発生します。 圧迫の原因には、肘関節の軟骨がすり減って骨が隆起した骨棘(こつきょく)や、靭帯の肥厚、トンネル内外にできたガングリオンなどがあります。神経引き延ばしの原因には、小児期の骨折によって生じた外反肘(がいはんちゅう)など肘関節の変形が原因となることもあります。手根管症候群と同様に神経伝導速度で診断が可能です。頸椎椎間板ヘルニアや糖尿病などでも似た症状が出現することがあります。 治療は症状が軽いうちは肘の安静、ビタミン剤の内服です。ただし症状が進行して手の筋肉の萎縮が起きてしまうと内服などでは治療が難しく、手術治療が必要となります。手術は尺骨神経を圧迫している靱帯を切る、神経の緊張が強い場合は前方に移動するなどの方法です。いずれにしても症状が進行してしまうと治療が難しくなるため早期に専門医を受診したほうがよいでしょう。

肘部管症候群肘部管症候群

日本手の外科学会 広報委員会作成パンフレットより

④関節リウマチ

関節リウマチで関節の破壊、変形が進行した場合はそのかたの生活に応じて手、肘を使いやすくする装具を作製します。しかし変形の程度が強く日常生活に支障を来すような場合は手術治療が必要です。リウマチの手、肘の障害はとてもたくさんあって、ここで紹介しきれませんので一部についてご説明いたします。手指がグラグラになる場合、ものをつまむなどの動作が障害されますので関節固定や人工指関節が適応になります。手指が急に伸びなくなる、あるいは曲がらなくなる場合は腱の断裂が疑われます。リウマチの滑膜炎や壊れた関節でこすれて断裂することがあります。腱を移植、縫合、壊れた関節を治す必要があります。肘関節がグラグラで痛い、不安定で物を持てないなどの症状は関節が破壊されていることが原因です。この場合は人工肘関節が良い適応となります。

関節リウマチ 関節リウマチ 関節リウマチ 関節リウマチ

日本手の外科学会 広報委員会作成パンフレットより

⑤母指CM関節症

物をつまむときやビンのふたをあけるときなど、親指に力がかかるときに付け根が痛みます。進行すると指の開きが悪くなり腫れもでてくることがあります。特に女性に多く、使いすぎや年齢的な変化で発症します。治療は装具、注射などを行い様子を見ます。痛みが改善しない、日常生活に支障をきたす場合などは手術治療を行う場合があります。手術方法は関節固定、靱帯再建、人工関節など症状に合わせて選択します。

関節リウマチ 関節リウマチ

日本手の外科学会 広報委員会作成パンフレットより

⑥テニス肘(上腕骨外上顆炎)

物を持つ、タオルをしぼるなど手首に力が入ったとき、肘の痛みがでる場合があります。悪化するとしびれたような感じ、夜もジクジク痛いなどの症状がでることもあります。原因は手首を伸ばす腱が肘の部分で痛んでいることが多く、中には肘関節の中に滑膜ヒダという組織が増殖して痛みの原因となっている場合もあります。治療は専用のバンドで固定、ストレッチ、注射などを症状に応じて行います。多くのかたは保存治療で改善しますが、なかには痛みがとれず手術治療を行う場合もあります。一般的には皮膚を切開して筋膜を切る、切除するなどの方法が行われています。当院では鏡視下手術と言って、関節鏡(小さい内視鏡のようなもの)を使って関節内から悪い部分をピンポイントで切除する方法を行っています。手術を受けた人のおよそ8割が症状ほぼ消失、2割が症状改善しています。
テニス肘(上腕骨外上顆炎)

5.スポーツ障害

①野球肘

少年野球で最も多い上肢の障害は肘関節です。小学生、中学生は骨格が未完成のため連投で酷使、間違ったフォームでプレーしていると関節の障害が発生しやすいです。肘の内側が痛む場合は内上顆の骨折、内上顆炎、内側側副靱帯損傷、尺骨神経障害などが考えられます。外側が痛む場合は離断性骨軟骨炎、外側側副靱帯損傷などがあり、肘関節伸展時の痛み、引っかかり感、急に肘が動かなくなるなどの症状は軟骨が遊離して関節内にはさまっていたり、骨棘と言って骨のでっぱりができてしまっている場合があります。レントゲン、MRIなど症状に応じて検査が必要です。症状が軽いようでも子供は親に黙っていることや、試合が近い、チームの人数が少ないので休むと迷惑をかけると思って親や監督に言わないことが多々あります。痛みを訴えた時点で病状が進行している場合がありますので早めに受診したほうがよいでしょう。 治療は基本的には投球制限、投球フォームの指導、練習内容の改善などチーム、学校の監督と連携して行います。多くは保存治療で改善しますが、軟骨損傷の程度が強い場合などは手術治療が必要となります。 野球肘で手術が必要なのはほとんどが離断性骨軟骨炎です。放置すると肘関節の軟骨がすり減って変形性関節症(お年寄りの膝のような感じ)となり動きが悪くなる、遊離体ができて肘が引っかかる、急に動かなくなるなどの症状がでることがあります。軟骨が剥がれかかっている状態であれば軟骨を骨釘で固定して温存できますが、完全に剥がれて遊離している場合は膝や肋軟骨を移植するなどの必要があります。 いずれにしても症状が進行してからだと治療も難しくなるので肘の痛み、違和感などなにか症状がある場合は早期に受診したほうがよいでしょう。

野球肘 野球肘 左図 離断性骨軟骨炎  中央 肋軟骨移植  右図 移植肋軟骨

②TFCC損傷

症状の特徴は、手首の小指側の痛みで、タオルを絞る、ノブを回す、蛇口をひねる、ペットボトルのふたを開けるときなどに痛みが走ることです。転倒など外傷で発生する場合もありますが、スポーツでは野球やゴルフなどのスイングで傷める人が多くようです。原因は手関節の三角線維軟骨複合体(TFCC)と呼ばれる組織の損傷です。TFCCは、軟骨と靭帯(じんたい)からできている組織で、外傷や反復運動によって切れたり、摩耗したりするなど損傷しやすい部位です。

保存療法で大部分が改善

TFCCが切れたり緩んだりなど損傷していても一般的なレントゲン検査では写らないため、診断がつかないことが多いです。原因不明の手首の関節痛に悩んでいる人は、一度『手の外科専門外来』のある整形外科受診をおすすめいたします。TFCC損傷のほとんどは、症状の特徴と問診、磁気共鳴画像診断装置(MRI)や関節造影検査による画像検査で診断が付きます。治療は軽い場合はまず、専用のベルト付きサポーターを用いた保存療法や関節注射を行います。通常、保存療法で大部分の人は改善しますが、改善されない場合は内視鏡を用いた手術か切開手術が必要になります。

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