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膵臓がんと健康診断で出来る
「膵・胆管MRI検査」について

 現在、日本の死因の24.6%※1は「がん」によるもので、国民のおよそ半数※2が生涯で「がん」に罹患します。

 その中で、膵がんは進行すると有効な治療法が確立されておらず、難治性がんの代表とされております。近年増加しており、がん死亡数の順位(2021年)では男性・女性ともに4位となっています※1
 膵臓がんの5年生存率は他のがんと比較して不良です※3
 ですが、2012年に日本膵臓学会から「腫瘍径が1㎝以下の膵がんの5年生存率は80%以上」との報告※4もあり、早期発見の重要性が強調されています。
 しかしこの大きさでは無症状であることも多く、一般的な腹部エコー検査でも描出困難な事が多く、腫瘍マーカー検査(CEA、CA19-9)の上昇も低率(15-40%)である事から、早期発見の難しさが指摘されています。

▼膵臓がんの5年生存率※3
  • Ⅰ期 52.0%

  • Ⅱ期 24.1%

  • Ⅲ期  5.7%

  • Ⅳ期  1.5%

 今回ご紹介する膵・胆管MRI検査(以下、MRCP)では、MRI装置を用いて膵管と胆嚢や胆管を同時に描出する検査です。
 膵臓の嚢胞性病変や膵がんの発症母地である膵管の評価に優れており、胆石や胆管結石などの胆道の評価も可能です。そして身体の負担が少ないためスクリーニング検査として有用と考えられており、早期発見に繋がる事が期待されています。

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MRCPで分かる疾患と検査内容

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発見できる可能性がある疾患

膵臓がん、膵のう胞性疾患、胆道疾患

検査内容

注射など特別な処置を必要としないMRIで、胆嚢、胆管、膵管を同時に描出する検査です。放射線被曝はありません。

膵がんの危険因子※5

家族歴 日本において膵がん患者さんの家族歴に膵がんが認められる割合は、5~10%とされています。親・兄弟姉妹子の第一度近親者に2人以上の膵がん患者が発生した場合は「家族性膵がん」と定義されています。
このような家族性膵がんの家系では、近親者に膵がんが1人いるとリスクが4.5倍、2人では6.4倍、3人以上では32倍と、近親者に膵がん患者が多いほど、膵がんの発生リスクが増します。
糖尿病 糖尿病患者さんでは、膵がんの発症リスクが高いことが報告されています。特に糖尿病発症1年未満の発症リスクは5.4倍との報告があります。このため新規発症の糖尿病や急激な血糖コントロール不良症例に対して、膵がんの精査が勧められています。
慢性膵炎 慢性膵炎も膵がんのリスクファクターとされています。膵がんの発生リスクは13.3~16.2倍との報告があります。
肥満 肥満も膵がんのリスクファクターとされています。特に20歳代の若い肥満男性のリスクは、正常なBMIの方と比べるとリスクは3.5倍と報告されています。
喫煙 喫煙の膵がん発症のリスクは非喫煙者のリスクと比較すると1.7~1.8倍になるとされています。喫煙量に応じて増加する傾向もあり、禁煙してから非喫煙者と同じベルに達するには、約20年を要しますので、早期の禁煙もお勧めします。
大量飲酒 適量の飲酒ではリスクにはなりませんが、大量飲酒(1日にアルコール摂取量が24g~50g ※缶ビール500ml1本で20g相当=2本飲むと該当します。)、では1.1~1.2倍になるとされています。

上記に当てはまる方、特に家族歴をお持ちの方に膵・胆管MRI検査をお勧めします。

健康診断での受診について

MRCPは、標準的な健康診断の必須項目ではありませんので、受診する健康診断のオプションとして受けられるか、受診される施設にご確認ください。

なお、当院では、オプション検診として、通常の健康診断に加えて受診する事ができます。【詳しくはこちらのリンクから】ご確認頂くか、当院健康管理センターまでお問合せください。

注釈・参考文献

※1 厚生労働省「令和4年(2022)人口動態統計月報年計(概数)の概況 図5主な死因」2023年,p11(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai22/dl/gaikyouR4.pdf)

※2 生涯でがんに罹患する確率(累積罹患リスク)は、男性65.5%(2人に1人)、女性51.2%(2人に1人)とされている。 がん情報サービス「最新がん統計」(https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html)2023年8月確認

※3 がん情報サービス「院内がん登録生存率集計結果閲覧システム」より編者が2015年生存率を抽出(https://hbcr-survival.ganjoho.jp/graph#h-title)

※4 日本膵臓学会 膵癌診療ガイドライン改訂委員会 編「膵癌診療ガイドライン2022」2022年7月、金原出版、p41(原著:Egawa S, Toma H, Ohigashi H, et al. Japan Pancreatic Cancer Registry; 30th year anniversary: Japan Pancreas Society. Pancreas 2012; 41: 985—92)

※5 日本膵臓学会 膵癌診療ガイドライン改訂委員会 編「膵癌診療ガイドライン2022」2022年7月、金原出版、pp38~41、原著はpp48~51を参照

執筆情報

執筆者:函館五稜郭病院 保健師

掲載日:2023年8月20日

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