看護場面とナイチンゲールの『看護覚え書』その8
「看護覚え書」はフロレンス・ナイチンゲールによって1859年に書かれた「Notes on nursing : what it is, and what it is not 」の完訳で、現在も看護の思想の原点としてすべて看護を学ぶ者の必読書と言われています。
このコラムは当院看護師が実際の看護場面を振り返り、「ナイチンゲールの『看護覚え書』」と照らし合わせた学びをご紹介します。
シーン
全面的な介助が必要な患者さんの身体の清潔とは・・・
担当する患者さんは、日常生活の全面的な介助が必要でした。また認知症の症状もあり、カテーテルを自分で抜いてしまうことを予防するために、手袋(ミトン型抑制具…鍋つかみのような手袋)を着用してもらいました。
しかし、常に手袋を使用しているためか、手指が蒸れていることと、手指の運動が制限されていることから、手指の汚染と関節が拘縮(関節の動きが悪くなる状態)してしまう可能性があると考えました。
そこで、ベッド上で手浴を行い、清潔にするとともに手指運動を促し、残存機能を維持する関わりを行いました。また、時間がある時はなるべく訪室し、手袋を装着している時間が少なくなるように関わりました。
手浴中は拒否行動も無く、穏やかな表情がみられていたため、言葉での表現はなかったが、患者さんは満足されたと感じました。
看護師の振り返り
-ナイチンゲールの看護覚え書より
皮膚をていねいに洗ってもらい、すっかり拭いてもらったあとの病人が、解放感と安らぎとに満たされている様子は、病床ではよく見かける日常の光景である。しかし、そのとき病人にもたらされたものは、たんなる解放感や安らぎだけではない、ということを忘れてはならない。事実、その解放感や安らぎは、生命力を圧迫していた何ものかが取り除かれて、生命力が解き放たれた、まさにその徴候のひとつなのである。
したがって看護師は、患者の身体の清潔に関する世話を、どうせちょっと気分が良くなるだけのことだから、時間がずれても同じこと、などという口実のもとに、何かの後まわしにするようなことを絶対にしないことである。
引用 F.ナイチンゲール 著『看護覚え書』湯槇ます・薄井坦子・小玉香津子・田村真・小南吉彦 訳・現代社・第7版・2011年 pp159-160
執筆情報
執筆者:函館五稜郭病院 看護部
掲載日:2024年5月30日
出典
フロレンス・ナイチンゲール 著『看護覚え書』湯槇ます・薄井坦子・小玉香津子・田村真・小南吉彦 訳・現代社・第7版・2011年